
聞き手 白井久美子さん
千葉県八千代市在住の72歳専業主婦。夫と暮らし、子世帯と二世帯住宅に住む。若いころは旅行やテニスが趣味のアクティブ派。今は膝の痛みで外出が減り、韓国ドラマやパン作りを楽しみつつ、ネットで情報収集をしながら治療法を探している。
(※本稿に登場する白井久美子さんは架空の人物です)
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減って骨同士が直接ぶつかり合い、やがて骨が変形してしまう病気です。日本では潜在的に約3000万人の患者がいると推定されており、高齢化とともに増加しています。
膝関節は大腿骨(だいたいこつ)・脛骨(けいこつ)・膝蓋骨(しつがいこつ)の3つの骨で構成され、さらに軟骨や半月板が衝撃を吸収する重要な役割を担っています。
日常生活で頻繁に使うため負荷が大きく、加齢により症状が現れやすいのが特徴です。
変形性膝関節症ってどんな病気?
変形性膝関節症とはどのような病気ですか?
膝の関節にある軟骨が少しずつすり減って、骨が変形してしまう病気のことをいいます。女性患者は男性患者に比べて1.5倍~2倍多く、高齢になるほど発症率が高くなります。
現在日本における患者数は自覚症状のある人で約1000万人、レントゲン検査で診断される潜在的な患者を含めると約3000万人と推定されています。(*1)(*2)
「軟骨がすり減る」とはどういうことですか?
そもそも軟骨とは骨の端を覆うクッションのような組織で、骨同士がぶつかり合う際の衝撃を吸収し、関節の動きをなめらかに保つ役割を担っています。
しかし加齢などが原因となってこの軟骨がすり減ると、骨と骨が直接ぶつかり、やがて骨が変形してしまいます。そのため、さまざまな症状が出るのです。
膝の関節で、軟骨はとても重要な働きをしているのですね。
はい、膝関節は太腿の骨である大腿骨、脛の骨である脛骨、いわゆる「膝のお皿」である膝蓋骨という3つの骨が組み合わせることで構成されています。
それぞれの骨の表面は軟骨で覆われていて、骨同士がぶつかる衝撃を吸収しています。


複雑な構成をしているのですね。
はい、そのほかにも大腿骨と脛骨の間には半月板という組織があって、関節に加わる衝撃を吸収する役割を担っています。
膝は体のなかで重要な関節のひとつであり、立つ、歩く、座るなど日常的に繰り返し使用する関節です。
そのため負荷がかかりやすく、特に加齢とともにさまざまな症状が出てきます。「年を取ったら膝が痛くなった」という人が多いのはこのためです。
(*1) 一般社団法人 日本関節病学会
(*2) 公益社団法人 日本整形外科学会
日本では高齢化社会の到来によって変形性膝関節症の患者さんは増加しています。
変形性膝関節症の主な症状
変形性膝関節症は、初期は動作開始時の痛みや違和感が中心ですが、中期になると膝に水が溜まったり、や膝の曲げ伸ばしがしにくくなったりします。
末期では安静時の痛みや膝の変形(O脚・X脚)が進み、筋力低下も加わって生活に支障をきたすようになります。
変形性膝関節症ってどんな症状が起こるの?
変形性膝関節症を発症すると、どのような症状が見られるのですか?
病気の進行状態によって異なります。初期で代表的なのは、膝の痛みです。
特に階段を降りる時や歩き始め、立ち上がりなど動作の開始時に膝の痛みやこわばり、違和感などを覚えるようになります。
ただし休むと痛みがなくなることがほとんどなので、そのままにしてしまう人が多いという特徴があります。
病気が進むとどうなるのですか?
やがて関節に炎症が起こり、膝のお皿のあたりに水(関節液)がたまるようになります。
関節液がたまると膝が腫れたり、痛みを引き起こしたりするほか、膝の曲げ伸ばしが難しくなることがあります。


どんどん痛みがひどくなるのですね。
はい、初期では、痛みを感じるのは主に動作を開始する時だけですが、中期になると痛みのために正座や階段の上り下りが困難になるなど、痛みを感じるシーンが増えてきます。
さらに末期になると安静にしていても痛くなり、日常生活に支障が生じるようになります。(*3)
痛みと関節の腫れ以外に、目立つ症状はありますか?
末期になると膝の変形が目立ち、膝がまっすぐに伸びなくなります。
これは膝関節で炎症が起こることにより、関節やその周囲の組織が硬くなってしまったことが原因。
また、痛みのために運動できなくなることで、膝関節周りの筋肉が衰えたことも関係しています。
「膝の変形が目立つ」とは?
膝の一部に体重がかたよってかかることで軟骨のすり減りが激しくなり、膝が「O脚」や「X脚」に変形することがあります。
特に日本人は軟骨の内側がすり減り、O脚になるケースが目立ちます。
O脚やX脚が目立つようになってきたら、変形性膝関節症を発症しているサインかもしれないのですね。
はい。O脚やX脚は単なる見た目の問題ではなく、膝への負担が大きくなり健康を害するという点でも重要です。
膝が変形してくると、体重のかかり方がかたよって軟骨のさらなる摩耗を招き、変形が進行するという悪循環を招くことになります。
(*3) 公益社団法人 日本整形外科学
変形性膝関節症の進行とともに痛みを感じる頻度が増え、下肢の筋力も低下します。足くびに悪影響を及ぼすケースもあります。
変形性膝関節症でお悩みの方は是非お気軽にご相談ください。
変形性膝関節症の原因
変形性膝関節症の主な原因は関節軟骨の老化で、加齢により軟骨成分が減少し弾力が失われることで摩耗が進みます。肥満も大きなリスクで、体重増加は膝への負担を増大させ、発症を促します。
さらに遺伝的要因、外傷や感染症、スポーツや重労働など膝に強い負荷がかかる生活習慣も関係します。特に女性は筋肉量の少なさやO脚傾向、ホルモンや骨格の影響から発症しやすく、特に50代以降の肥満女性では注意が必要です。
変形性膝関節症はどんな人がなりやすいの?
変形性膝関節症は、なぜ、発症するのですか?
主な原因は、関節軟骨の老化です。そのほか、肥満や遺伝なども発症に関係しています。
「関節軟骨の老化」とはどういうことですか?
関節軟骨は水分やコラーゲン、プロテオグリカンなどの成分で構成されています。
これらのおかげで、軟骨はみずみずしく弾力があり、骨同士がぶつかる衝撃を吸収することができるのです。
しかし加齢とともにこうした成分が減少し、弾力性が低下していきます。そのため軟骨が摩耗しやすくなり、骨同士が直接ぶつかるようになるのです。
肥満も関係しているのですか?
はい。体重が増加すると膝にかかる負担も増すため、変形性膝関節症を発症しやすくなります。
研究により、BMIが5上昇すると、変形性膝関節症を発症するリスクが男性で1.22倍、女性で1.38倍高くなることがわかっています。(*4)
遺伝も関係しているということですが、親が変形性膝関節症だと子もなりやすいのですか?
はい。近年の研究により、変形性膝関節症の発症には遺伝的な背景が関与していることが明らかになっています。
変形性膝関節症と関わりの深い遺伝子も見つかっていて、これがある人は発症リスクが1.6倍大きくなるという報告もあります。
そのほか、発症の原因になることはありますか?
場合によって骨折の外傷として発症することもあります。
また、靱帯や半月板損傷などの外傷、化膿性関節炎などの感染症が原因になることもあります。(*5)
「変形性膝関節症を起こしやすい人」はどのような人ですか?
バスケットボールやサッカーなど、膝に負担のかかる動作を多く行うスポーツでは、膝に強い衝撃がかかるため、変形性膝関節症のリスクが高まります。
また農業や重いものを持つ仕事なども膝に負担となることが多いので、膝関節のすり減りが目立つようになります。
そのほか、どんな人に多いのですか?
特に注意したいのは女性です。女性は男性に比べて膝を支える筋肉量が少なく、また日本人は全般的にO脚の人が多いため、膝の内側に負荷をかけやすいという特徴があります。
そのほか、女性ホルモンの減少により骨密度が低下して膝関節にかかる負担が増えることや、女性特有の骨盤の構造による影響なども、変形性膝関節症が女性に多く見られる原因とされています。(*6)
肥満気味の女性は注意が必要ですね。
はい。研究により変形性膝関節症は50才代以降の肥満女性に多いことが知られています。この年代になったら特に注意が必要です。(*6)


(*4) 一般社団法人 日本肥満学会
(*5) 公益社団法人 日本整形外科学会
(*6) 理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
原因のうちいくつかはご自身で改善可能なものなので、生活を見直すことで変形性膝関節症の進行を遅らせることができると考えます。
変形性膝関節症の治療法
変形性膝関節症の治療は、まず運動療法や薬を中心とした保存療法を行い、十分な改善が得られない場合には手術を検討します。
手術には骨切り術や人工膝関節置換術があり、骨切り術には自分の関節を温存できる、人工膝関節置換術には痛みを大幅に軽減できる、回復が早いなどのメリットがありますが、どちらにもデメリットがあります。
そのため、年齢や生活スタイルに応じた治療選択が重要です。
変形性膝関節症の治療法はどんなものがある?
変形性膝関節症の治し方について教えてください。
治療法は、大きく分けて保存療法と手術の2種類があります。基本的には、まずは保存療法を選択します。
それでも改善が見込めない場合や、日常生活に支障が及んでいる場合には手術を検討します。
変形性膝関節症の保存療法とは
保存療法ではどのようなことを行うのですか?
大きく分けて運動療法(リハビリ)と薬物療法があります。
運動療法では主に、膝を支える筋肉を鍛えることと、膝の動きを良くすることを目指します。
特に、変形性膝関節症では痛みのために足を動かさなくなることで膝周辺の筋力が低下しています。
そのため、膝関節が不安定になっているので、安定性を高めるためにも、筋力アップが有効です。
具体的に、どの筋肉を鍛えるのですか?
特に大切なのは、太腿の前側の筋肉です。この筋肉は膝を伸ばす役割を担い、歩行や立ち上がりなど日常生活に不可欠。鍛えることで膝の安定性がよくなります。
そのほか、太腿の外側や脚全体の筋肉を鍛えることも大切です。(*7)
薬物療法では、どのような薬を使うのですか?
痛みや炎症を抑えるために消炎鎮痛剤などを内服したり、クリームや軟膏、ゲル、貼り薬などの抗炎症薬を使用したりすることがあります。
そのほか膝の関節内にヒアルロン酸を注射する方法もあります。
ヒアルロン酸を注射することで、どんな効果があるのですか?
ヒアルロン酸はもともと膝の関節液に多く含まれている成分で、軟骨を保護したり、関節の滑りを滑らかにしたりする作用があります。
これを注射で補って膝関節が滑らかに動けるよう、サポートします。そのほか最近では再生医療も行われます。


それはどのような治療ですか?
再生医療は最新治療のひとつであり、さまざまな方法があります。
たとえばPRP療法といって、患者自身の血小板を使って傷んだ部分を修復する治療が行われることもあります。ただし、保険適用外となります。(*8)
変形性膝関節症の手術とは
一方、手術はどのような治療ですか?
変形性膝関節症に対する手術は大きく分けて、骨切り術と人工膝関節置換術の2種類があります。
どちらにするかは症状や膝の変形度合い、患者の年齢、活動レベル、ライフスタイルなどから総合的に検討します。
それぞれ、どのような手術ですか?
骨切り術は膝関節の下にある脛の骨の一部を切り取り、膝への体重のかかり方を矯正し、関節にかかる力が等しくなるよう調整する手術のこと。
また、人工膝関節置換術とは文字通り、傷んだ膝関節を人工物に置き換える手術のことをいいます。
病態によって、膝の一部だけを人工関節に置き換える場合と、全体を置き換える場合があります。


それぞれ、メリットとデメリットがあるのですか?
たとえば骨切り術には、自分の関節を温存できるというメリットがありますが、その一方、入院期間が長かったり、回復まで時間がかかったりするというデメリットもあります。
人工膝関節置換術には、痛みが劇的に軽減される、回復までの時間が短いというメリットがありますが、感染症や人工関節の緩み、摩耗などのリスクがあり、場合によっては再手術になることもあります。
どちらを選択するかが重要ですね。
一般に、まだ若くて活動性を重視する場合には骨切り術を、膝の変形が進んでいて痛みが強い場合には人工膝関節置換術を選択することが多いですね。
また、人工膝関節置換術の方が早く日常生活へ復帰できるので、早期に会社へ戻りたいといった場合に選択されることも多いと思います。
両膝を一度に手術することはできるのですか?
両膝に痛みがあり、全身状態がよければ、両膝を同時に手術することはできます。
その場合、治療期間が短くて済む、脚の形や長さを揃えやすいなどのメリットがあります。
手術の費用は保険が適用になるのですか?
はい、健康保険が適用になるほか、高額療養費制度も活用できます。詳しくは手術を行う医療機関に相談してみてください。
(*7) 日本整形外科学会 変形性ひざ関節症の運動療法
(*8) Functional Food Research Vol.16 2020
変形性膝関節症には様々な治療法があります。患者さんのライフスタイル、膝の状態によって最適な治療法を主治医と相談しながら決定していく事が大切です。
変形性膝関節症を患っていて、人工膝関節を検討されている方、病院選びでお悩みの方、お気軽にご相談ください。
変形性膝関節症の悪化を防ぐために
変形性膝関節症と診断されたら、まず膝に負担をかけるランニングやジャンプ、和式生活での正座やあぐらは避けましょう。椅子やベッドを使った様式生活に切り替えると安心です。さらに体重管理や休養も重要です。
一方、適度な運動は全身の筋力アップに役立ち、可動域を改善する効果があります。水泳や短時間のウォーキングなど無理のないものを選び、痛みが出たら休むことが大切です。
変形性膝関節症で注意すべきことは?
変形性膝関節症と診断されたら、日常ではどんなことに注意したら良いのでしょうか?
まずは、膝に負担のかかる運動は避けるようにしましょう。
具体的に、以下は避けた方が良いとされています。
- ランニングや長時間のウォーキング
- 急に動く、急に止まる、ジャンプ、急な方向転換といった動作を伴うスポーツ(テニス、バスケットボール、サッカー、スキーなど)
- 柔道やラグビーなどのコンタクトスポーツ
そのほか、重い物を持ち上げる作業も避けた方が良いでしょう。立ち仕事の場合には休憩時間をこまめに取る、サポーターを使用するなどの配慮が必要です。
そのほか、日常でやってはいけない動作はありますか?
同様に、以下の動作も禁忌肢位とされています。
- 正座
- あぐら
- 深くしゃがむ
- 布団で寝る
- 床に座る
- 和式トイレを使う


布団で寝たり、床に座ったりしてはダメなのですね。
そのような動作は膝を深く曲げる動作を伴います。できればそのような和式の生活ではなく、椅子に座る、ベッドで寝るなど洋式の生活に切り替えましょう。
ほかに、日常で気を付けることはありますか?
適正体重を維持することも心がけましょう。また、日常的に手すりを使う、動作をゆっくり行うなどを心がけると、膝への負担を軽減することができます。
おすすめの運動はありますか?
長すぎない距離でのウォーキングや水泳などの水中運動は、全身の筋力アップや膝関節の柔軟性向上に役立ちます。また、ヨガやストレッチなどの柔軟性を高める運動も良いでしょう。
ただし痛みを感じたら無理せずに休息すること。痛みは膝からのサインですから必ず無視せず、きちんと休ませるようにしましょう。
また理学療法士やトレーナーの指示に従い、正しいストレッチ方法を学ぶことも大切です。
基本的には膝に負担のかかる動作・運動は控えてください。運動も大切ですが、痛い時は休養することも大切です。
まとめ
変形性膝関節症は、加齢や生活習慣などを背景に膝の軟骨がすり減り、骨同士が直接ぶつかって変形する病気です。国内には約3000万人の潜在患者がいると推定され、高齢化に伴い増加傾向にあります。
初期には動作開始時の痛みや違和感が見られ、中期では関節液の貯留や可動域制限が出現、末期には膝の変形や筋力低下を伴い日常生活に支障を及ぼします。
治療はまず運動療法や薬物療法などの保存療法を行い、改善が不十分なら骨切り術や人工膝関節置換術を検討します。
日常生活では正座やあぐら、ランニングなど膝に負担をかける動作を避けるとともに、体重管理や適度な運動が進行予防に役立ちます。
振り返りのポイント
- 軟骨の老化が主因となり、高齢者に多い
- 膝の違和感から始まり、末期になると膝が伸びないなど骨の変形も進む
- 肥満や遺伝、外傷もリスク要因になる
- 基本は保存療法。ただし必要に応じて手術を選択
- 日常は膝に負担を避け、洋式生活への移行を推奨
変形性膝関節症は高齢化社会に伴って年々増加しています。要支援・要介護の原因の一つにもなっており、適切な治療をすることで、痛みのない膝でご自身の人生を歩んでください。
変形性膝関節症は痛みを伴い、ひどくなると日常生活を送ることが困難になる病気です。変形性膝関節症でお悩みの方はお気軽にご相談ください。