
聞き手 千葉 節子さん
千葉県柏市在住の68歳専業主婦。夫と暮らし、近くには子や孫もいて交流が盛ん。趣味はフラダンスや水泳で、仲間と楽しむことが生きがい。健康に気を配る一方で、ここ数年は股関節の痛みに悩まされ、手術を検討している。
(※本稿に登場する千葉節子さんは架空の人物です)
変形性股関節症とは
変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減ることで痛みや動かしにくさを生じる疾患です。日本では特に女性に多く見られ、近年の研究により、その背景には遺伝的な要因があることがわかってきました。
発症すると股関節周辺に痛みやこわばりが生じるほか、歩行や立ち上がりなど日常の動作が不自由になってきます。
変形性股関節症という病気について
変形性股関節症とはどんな病気ですか?
変形性股関節症とは、股関節の軟骨がすり減ることで関節の動きが滑らかでなくなり、脚の付け根に痛みやこわばりを生じる疾患です。
症状が進むと歩行や立ち上がりといった日常の動作がやりづらくなってきます。

最近、私も股関節が痛いんです。
日本では特に女性に多く見られる病気なので、もしかしたら気づかないうちに発症しているのかもしれませんね。
どうして女性に多いのですか?
なぜかというと、日本人女性はもともと股関節の形に異常があることが多いから。
現在、日本では変形性股関節症の患者数は500万人ほどと言われていますが、男女比は1:7と女性に明らかに多いです。(*1)(*2)
「もともと股関節に異常がある」って、とても気になるんですが……。
そもそも股関節は太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)が、臼蓋(きゅうがい)という骨盤側のくぼみにすっぽりはまることで自由度の高い動きが可能になっています。
でも日本人女性は生まれつき臼蓋のくぼみが浅く、大腿骨を十分に覆うことができない場合が比較的多いのです。そのため股関節に負担が集中して、変形性股関節症に進行するリスクが高いと言われています。
こうした症状を臼蓋形成不全 (きゅうがいけいせいふぜん)といいます。

どうして、日本人女性に臼蓋形成不全が多いのですか?
長年、その理由は謎とされてきましたが、最近では遺伝的要因のほか、逆子など胎児期の胎位異常が原因として考えられています。
特に近年では遺伝子解析の技術が進化したおかげで、臼蓋形成不全を引き起こす原因となる遺伝子が判明し、その遺伝子を持っている人は臼蓋形成不全になりやすいことがわかっています。(*3)
(*1)JA愛知厚生連
(*2)公益財団法人 長寿科学進行財団
(*3)独立行政法人 理化学研究所
違和感や痛み症状は足の付け根に出ることが多いですが人によっては、人によっては膝や腰の痛み症状として来院される患者さんもいます。
臼蓋形成不全を診断されていたり、股関節の違和感、痛みがある方は以下の初診予約ボタンからお気軽にご相談ください。
変形性股関節症の主な症状
変形性股関節症では、股関節の前側や外側、脚の付け根などに痛みや違和感が現れ、立ち上がりや歩き始めで特に強く感じられます。
進行すると、靴下を履く、正座や階段の昇降といった日常動作が困難になり、安静時や夜間にも痛みが出ることがあります。
症状が悪化すると脚の動きや長さにも影響するため、早めの治療が重要です。
変形性股関節症の症状について
変形性股関節症の症状を教えてください。
主な症状は股関節の痛みと機能障害です。
初期には股関節の違和感として感じることが多く、「股関節が重い」「だるい」「突っ張る」などと話す患者さんもいます。それから、痛みも生じてきます。
具体的に、どこが痛むのですか?
股関節の前側や外側、脚の付け根などが痛くなる人が多いですね。
なかにはお尻や太もも周辺に痛みを覚える人もいます。
どういうときに痛みが出ることが多いのですか?
立ち上がるときや歩きはじめにそのあたりが痛くなることが多いですね。
ただし、しばらくすると痛みが治ったり、楽になったりすることも多いので、そのまま見過ごしてしまう人も多いのです。

痛み以外に、どんな症状が出ますか?
股関節が痛くて屈むことが困難になるので、「足の爪が切りにくい」「靴下を履きにくい」「和式トイレを使ったり、正座をしたりするのが困難」といった症状が見られます。
また長い時間立ったり歩いたりすることが辛くなり、「台所仕事ができなくなる」「階段をのぼったり、車やバスの乗り降りをしたりするときには手すりが必要になる」といった変化も見られます。(*4)
日常生活で不自由なことがたくさん増えるんですね。
はい、さらに病気が進行すると、安静時にも脚の付け根が痛くなったり、夜眠っているときにも痛みを感じたりします。
さらに進むと、極度の痛みで脚が伸びなくなったり、左右の脚の長さが違ってきたりすることも。早めの治療が肝心です。
(*4)公益財団法人 日本整形外科学会
変形性股関節症の原因
変形性股関節症の主な原因は、股関節の受け皿が浅い「臼蓋形成不全」で、全体の約8割以上を占めます。
そのほか加齢による軟骨の摩耗も重要な発症要因。さらに、重い荷物を運ぶ仕事や長時間の立ち仕事、重量挙げなど股関節に負担のかかるスポーツもリスクになります。
発症は40~50歳に多く、肥満によって股関節への負荷が増すことも進行の要因となるため、適正体重の維持が重要です。
変形性股関節症の原因について
変形性股関節症の原因を教えてください。
最も多いのは、臼蓋形成不全で、変形性股関節症の原因のうち、80%以上を占めるといわれています。
そのほかには加齢による軟骨の摩耗が原因となることもあります。
「軟骨の摩耗」とは、具体的にどういうことですか?
軟骨とは関節の表面にある柔らかな組織のこと。骨と骨がぶつかり合う時の衝撃を吸収するクッションのような役割を果たしています。
若い時には十分な厚みがありますが、加齢とともにすり減ると炎症や痛み、骨の変形を引き起こすようになるのです。
そのほか、変形性股関節症の原因はありますか?
股関節に負担が多い仕事やスポーツも軟骨のすり減りを加速させ、変形性股関節症の原因になることがあります。
たとえば重い荷物を運ぶ仕事や長時間の立ち仕事、重量挙げなどのスポーツは要注意です。
重いものを持つ仕事もダメなのですね。
はい、変形性股関節症のガイドラインでも、「1日25㎏以上を持ち上げる作業は変形性股関節症の危険要因である」と述べられています。
変形性股関節症はどのような年代の人に発症しやすいのですか?
一般に、好発年齢は40〜50歳と言われています。この年代になると軟骨の摩耗が進み、股関節に負担が大きくなるからです。そのほか、肥満の人も要注意です。
なぜ、肥満と関わりがあるのですか?
肥満になると股関節にかかる負担が大きくなり、軟骨のすり減りが激しくなるからです。一般に歩行時、股関節にかかる負担は体重の3~4.5倍、ジョギング時には体重の4~5倍、階段の上り下りには体重の6.2~8.7倍という負荷がかかると言われています。
それだけ負担が増えるのですね! それならたった1kg増えただけでも大変ですね。
その通り。肥満になると変形性股関節症が進行しますが、そうなると今度は「痛いから動きたくない」となり、ますます肥満が進むことになってしまいます。そのため、変形性股関節症を発症したらまずは適正体重まで減量することが大事なのです。
(*5) 徳島県医師会
変形性股関節症は加齢、体重増加などにより軟骨のすり減りが激しくなることで進行します。
ご自身の状態を把握し、早めに治療を始めることで進行を抑えることができますので、まずは検査から始めてみましょう。
変形性股関節症の治療法
変形性股関節症の治療は、症状の進行度に応じて段階的に選択されます。
初期には薬物療法や生活指導、運動療法(リハビリ)などの保存療法が中心で、近年は再生医療も新しい選択肢として注目されています。一方、変形性股関節症が進行して日常生活に支障が出る場合は手術が検討されます。
治療法を選ぶ際には、患者の年齢や生活スタイルに合わせた判断が重要です。
変形性股関節症の治療法について
変形性股関節症の治し方について教えてください。
まずは、症状の進行度合いによって治療法を選択します。一般には、初期の場合には保存療法を、それ以降の場合には手術を検討します。(*6)
初期かどうか、どうやってわかるのですか?
多くの場合、自覚症状のほかレントゲン検査で診断します。軟骨のすり減りや骨の変形などを確認し、初期や進行期、末期などを判断します。レントゲン検査だけではわかりづらい場合にはMRI検査も併用します。
初期の場合には保存療法が行われるのですね。具体的に、どのような治療を行うのですか?
簡単にいうと、手術を伴わない治療法はすべて保存療法に含まれます。変形性股関節症に対して行われる保存療法には、以下のものがあります。
- 薬物療法 鎮痛剤や貼付剤を使って痛みを抑えたり、関節の働きを改善したりする
- 温熱療法 体を温めて股関節周辺の血行を良くし、痛みを抑える
- 生活指導 股関節への負担を減らすために適正体重に戻したり、歩行時間を制限したりする。杖の使用も有効。
- 理学療法(リハビリ)筋力アップやストレッチなどにより股関節への負担を軽減する
いろいろな治療法があるのですね。
はい、実際には症状や病態を見ながらこれらの治療法を組み合わせて行います。それから近年では変形性股関節症の治療に再生医療が用いられることもあります。
再生医療とはなんですか?
簡単にいうと、自分の血液や細胞から取り出した成分を関節に注入し、炎症を抑えたり軟骨の修復を促したりする治療法のこと。体への負担が少ないため、手術以外の新しい選択肢として注目されています。
それは保険適用なのですか?
いえ、現時点で、変形性股関節症に対する再生医療は健康保険の適用外で、多くは自由診療として行われています。医療機関ごとに費用が異なるので、治療を検討する際には医師に金額を確認しましょう。
一方、手術はどのような時に行われるのですか?
保存療法ではあまり改善を見込むことができない場合や、痛みなどの症状が強い場合、日常生活に支障をきたすような場合は手術を検討します。
どのような手術を行うのですか?
大きく分けて、「骨切り術」と「人工股関節置換術」の2種類があります。
それぞれ解説をお願いします。
はい。まず骨切り術とは、股関節近くの骨を一部切除し、移動して安定させることで股関節の負担を軽減する手術のこと。寛骨臼回転骨切り術などいろいろな種類がありますが、いずれも自分の関節を温存することができ、手術後に活動制限がないことがメリットです。

反対にデメリットもあるのですか?
はい、骨が繋がるまでに時間がかかり、入院やリハビリの期間が長くなるのがデメリット。入院期間が2か月くらいになることもありますが、自分の骨を温存できるため比較的若い人に選ばれる傾向があります。(*7)
当院では骨切り術は行っておりません。
人工股関節置換術とはどのような手術ですか?
股関節を人工股関節(インプラント)に置換することで、痛みの緩和や股関節の機能回復を図る手術のことをいいます。骨切り術と異なり、自分の関節を温存することはできませんが、その代わり、股関節の痛みが著しく改善する、リハビリ期間が短く、回復も早いといったメリットがあります。

自分の股関節を取り出して、人工物に置き換えるということですか。手術は安全なのですか?
はい、近年では医療技術の進歩により安全に手術を行うことができ、患者さんの満足度も非常に高くなっています。また、以前は人工股関節の耐久性が問題となり、場合によっては再置換しなければならないということもありました。しかし近年では性能が上がり、耐久性は20〜30年以上と言われています。
そうなると、ある程度高齢になってから人工股関節に置換すれば、再手術をする必要がないということですね。
その通りです。そのため現在では年々、人工股関節置換術を希望する患者数は増加しています。
人工股関節置換術のデメリットはあるのですか?
もっとも多い術後のリスクは脱臼です。当院では筋肉を切らない方法を採用しているので従来の方法より脱臼の可能性は低いです。人工関節がまだ安定していないうちに激しい運動を行うと、股関節が脱臼し、場合によっては再手術が必要なこともあります。また手術後に創部に細菌感染が起きてしまうリスクもあります。そのほか時間が経つにつれて人工関節に弛みが生じた場合には、入れ替えのための再手術が必要になる場合があります。
どちらにもメリットとデメリットがあるのですね。
はい。そのため自分の年齢やライフスタイルなどによって術式を決定することが大切。またどちらの手術をしても術後にはリハビリが必要になるので、必ず医師の指示に従って継続するようにしましょう。
(*6)理学療法ハンドブック シリーズ17 変形性股関節症
(*7)八戸市医師会
日常生活で注意すべきこと
変形性股関節症と診断されたら、まずは股関節に余計な負担をかけない生活を意識することが大切です。
体重管理、深くしゃがまない、椅子や洋式トイレを利用する、ヒールを避ける、重い物を持たない、股関節に負担の少ない運動に切り替える(スイミング、エアロバイクなど)など日常の工夫で負担を減らせます。
変形性股関節症は進行性の病気ですが、生活習慣の工夫や早期の治療で悪化を防ぐことができます。違和感を感じたら早めに受診することが重要です。
変形性股関節症の日常生活について
変形性股関節症と診断されたら、どんなことに気をつけたら良いですか?
まず大事なことは、できるだけ股関節に負担をかけないということです。たとえば、以下のことに気をつけると良いでしょう。
- 健康的な体重を維持する
- 深くしゃがまない
- 畳や布団、和式トイレではなく、椅子やベッド、洋式トイレの生活に切り替える
- ヒールの高い靴を履かない
- 重いものを持たない
- 杖を使用する
注意すべきことがたくさんあるのですね!
日常生活でちょっとしたことに気をつけるだけで股関節の負担をぐんと減らせます。たとえば座るときでも、正座やあぐら、足を組むなどの姿勢は股関節に負担となるのでNGです。
それでは、どんな座り方が良いのですか?
背もたれの椅子を選び、股関節の角度が90度になるように座ります。股関節の屈曲がこの角度を超えると痛みにつながるので気をつけましょう。
こうしたことに気をつければ、症状を悪化させずに済むのですか?
変形性股関節症は時間の経過とともに進行していき、次第に症状が重くなっていく病気です。しかし日常生活で股関節に負担をかけないよう意識したり、早期に適切な治療を開始したりすることで、症状が悪化するのを食い止めることは可能です。
早期発見、早期治療が大事なのですね!
はい、特に40代になったら股関節に負担をかけない生活を意識するとともに、「股関節が重い」「だるい」といった違和感を覚えたら、早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
まずは症状があれば医療機関を受診し、専門医からアドバイスを受けることが大切です。
まとめ
変形性股関節症は日本人女性に多く、主な原因は臼蓋形成不全や加齢による軟骨摩耗です。初期であれば保存療法で進行を抑えることができますが、重症化すれば手術を検討する必要性も。股関節は歩行など日常的な行動の要となる、大事な部分です。「ちょっとおかしいな」と違和感を覚えたら、早めに整形外科を受診することをおすすめします。
変形性股関節症のポイント
- 股関節の軟骨がすり減ると、痛みや関節の変形を招く
- 股関節の前側や外側、脚の付け根などに痛みが現れ、進行すると日常生活が困難に
- まずは保存療法を選択。運動療法と薬物療法で痛みを軽減
- ヒアルロン酸注射や再生療法も選択肢
- 重症例は人工関節置換術が行われることが多い
変形性股関節症は痛み、動かしにくさで生活の質が下がる原因になりますが、将来的には「寝たきり」の原因になってしまう可能性があります。いつまでもご自身の足で人生を歩いていくために早期発見・早期治療が大切です。
早めの受診で、将来の関節の健康を守りましょう
変形性股関節症の症状がある方は、自己判断せず、まずは正しい診断を受けることが大切です。
痛みや違和感を感じた段階で適切な治療を始めることで、進行を防ぎ、日常生活の質を保つことができます。
当院では、股関節専門の医師が丁寧に診察・ご説明いたします。お気軽にご相談ください。

